父と絵と私小さな頃から絵を描くことが大好きだった。 小学生の頃はいつも「自由帳」を持ち歩いていて、 好きなだけマンガを描いていた。 父は絵画関係の仕事をしていた。 父の絵は、大きな展覧会でも何度か入賞したことがある。 そんな父が、子供だった私の描くマンガを見て 「こんなんじゃだめだ。マンガばかり描いていたらまともな絵は描けなくなる。」 といつも言っていた。 私はマンガを描くことは罪なんだなと思っていた。 夏休みの宿題によくあった、 「夏休みの思い出を絵に描きなさい。」 私の絵には、必ず父の手が加えられていた。 学校の先生は 「お父さんと絵が描けて良かったですね。」 とよく評価欄に書いていた。 私は物事を最後までやり遂げることが苦手な子供だった。 そんな私が小学校6年生の頃、たった一度だけ本気で絵を描いてみたことがある。 校内の写生会だったのだが、金賞を取ることもできた。 その絵は学校にずっと飾られていた。 親に褒めてもらったかどうかは全く覚えていないけど、 自分の絵が際立っていたことは覚えている。 中学一年生の頃はそこそこに絵が好きだったと思う。 でも、記憶にあるのは一学期まで。 そこから絵を描いた記憶がない。 それは父から繰り返される「お前は俺の娘だから絵の才能はない。」 という、執拗な言葉の暴力。 絵を描くことが好きな子どもに向かって、何てことを言うのだろう・・・。 大人になってから分かったことだが、 その頃父はスランプで、絵を描くことが出来なかったらしい。 展覧会にもことごとく落選していたようだ。 そんな父のストレスが私に向けられてしまったみたい・・・。 今では私は、全く絵を描かなくなってしまった。 根本的に絵は好きなので、何度も描こうとしたし 実際スケッチブックを買って、ちょっとしたものを描いたりもした。 でもだめみたい。 自分の描いた絵に嫌悪感をおぼえて、すぐ放棄してしまう・・・。 そのくせ見る目だけは肥えていて (子供の頃から絵画展には連れて行かされてたし、家には画集も図書館並にあったので・・・) 無意識に心の中で他人の絵を厳しく評価してしまう。 最近父は絵を描くことを再開したようだ。 十何年ものブランクも手伝ってか、かなり酷い絵を描いている。 デッサンはめちゃめちゃだし、構図もなんだか垢抜けない。 指導者としての腕は一流だったのに、自分の腕は三流以下になってしまったよう・・・。 それでも楽しそうに描いている。 自分がスランプで絵をかけない時に 散々私に八つ当たりしていたくせに、全く呑気なものだよ・・・。 おまけに父は私の見る目を知っていて 「これどうだ?」と絵の感想を聞いてくる。 そんな時私は心の中で 「決して人様にあげるなよ。恥をかくだけだぞ。」 と言いながら 「いいんじゃない?」 って答えてあげる。 老後の楽しみを取っちゃ悪いからね。 |